光創起イノベーション研究拠点
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革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)

COI STREAM

COI STREAM 2013-2021
文部科学省「革新的イノベーション創出プログラム」
Center of Innovation Science and Technology based Radical Innovation and
Entrepreneurship Program

精神的価値が成長する感性イノベーション拠点

<サテライト拠点>
光創起サテライト拠点の強みである「光」と「音」の技術を活かして、広島大学中核拠点が目指すBrain Emotion Interfaceの開発とその社会実装を補完するため、感性のセンシング技術と伝達技術に関する研究に取り組みました。

プロジェクトリーダー
   原 勉(浜松ホトニクス株式会社 取締役常務執行役員 中央研究所長)
   ※所属・役職名は原稿作成当時のものです。

リサーチリーダー
   川人 祥二(静岡大学 電子工学研究所 教授)
   ※所属・役職名は原稿作成当時のものです。

参画機関(令和3年度現在)

  • 静岡大学
  • 浜松医科大学
  • 光産業創成大学院大学
  • 千葉大学
  • 浜松ホトニクス株式会社
  • 本多電子株式会社
  • 株式会社ブルックマンテクノロジ
  • パルステック工業株式会社
  • 橋本螺子株式会社
  • 株式会社フォトロン

COI光創起サテライト拠点 研究成果

下記資料はクリックすると拡大します

浜松が誇る光技術に感性研究がもたらした新しい可能性

原 勉(浜松ホトニクス株式会社 取締役常務執行役員 中央研究所長)

光創起サテライト拠点プロジェクトリーダー
原 勉(浜松ホトニクス株式会社 取締役常務執行役員 中央研究所長)
※所属・役職名は原稿作成当時のものです

100年の歴史をもつ光産業の拠点

浜松市は、1926年に浜松高等工業学校(現・静岡大学工学部)助教授だった高柳健次郎先生によってテレビジョンが誕生して以来、光技術を軸とした産業が盛んであり、産学連携による研究開発・社会実装に積極的に取り組んで来ました。
2013年には、国立大学法人静岡大学、国立大学法人浜松医科大学、学校法人光産業創成大学院大学、浜松ホトニクス株式会社の4者が連携協力して「光の尖端都市HAMAMATSU」の創造をめざす「浜松光宣言2013」に調印し、同じ2013年に文部科学省の革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)に採択され、広島大学中核拠点、生理研サテライト拠点とともに、感性の可視化というテーマに挑むことになりました。
さらに、文部科学省の「地域資源などを活用した産学連携による国際科学イノベーション拠点整備事業」によって、2015年、静岡大学浜松キャンパス構内に光創起イノベーション研究拠点棟が竣工し、感性COIに関する研究開発もここで進められてきました。

光技術を活用して感性を測る試み

光創起サテライトに結集している大学・企業にとって感性は未知のテーマであり、取り組み当初は困惑もありました。しかし、広島大学中核拠点、生理研サテライト拠点の研究者と議論を重ねるなかで、感性を測るという挑戦に我々の光技術、カメラなど撮像デバイスの開発力を活かすことができるとわかり取り組みが加速しました。そして、光の特性を活かし、非接触、非拘束で心拍や血流、体動などの生体情報を測定できるデバイスやシステムを開発することができました。
これによって、広島大学中核拠点、生理研サテライト拠点の研究に新しい可能性を提供することができ、私たち光創起にも感性測定という新しい得意分野を得ることができました。来年度以降も浜松地域では大学と企業との共同研究の構想が進んでいます。

感性COIの成果を活かして未来へ

感性COI拠点の事業は2021年度で終了しますが、浜松では、地域イノベーションエコシステム形成プログラムへの採択(文部科学省、2016年)、産学官金連携イノベーション推進事業(A-SAP)の立ち上げなどによって、光の尖端都市としての取り組みを継続しています。感性COIの取り組みで得た様々な知見、技術、そして連携ネットワークを光創起の得意とする光技術の分野で活かし、光創起拠点にしかできない技術、デバイスの開発を今後も続けて行きたいと考えています。
なお、本プロジェクトに参画したことによる個人的な大きな成果は、広島拠点および生理研拠点の皆様と何ものにも代え難い人脈ができたことだと思っています。
最後に、感性COIの取り組みに参加・協力をいただいた大学・研究機関、連携企業の研究者・技術者のみなさま、広島大学中核拠点、生理研サテライト拠点の関係者のみなさま、多大なご支援をくださった文部科学省および、科学技術振興機構に、心より感謝を申し上げます。

光技術による感性可視化への挑戦と新たな価値創造の実現

川人 祥二(静岡大学 電子工学研究所 教授)

光創起サテライト拠点リサーチリーダー
川人 祥二(静岡大学 電子工学研究所 教授)
※所属・役職名は原稿作成当時のものです。

2013年、広島大学中核拠点、生理研サテライト拠点とともに、光創起サテライト拠点として、文部科学省の革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)に採択され、感性の計測と可視化というテーマに取り組んで9年が経過しました。プロジェクトに共に取り組んでくださったすべての関係者のみなさんに、まずは感謝を申し上げたいと思います。

光の尖端都市HAMAMATSUで

浜松地域では静岡大学の前身である浜松高等工業学校の助教授だった高柳先生によるテレビジョンの発明という偉業を出発点として、光に関わる産業の育成・促進に力を入れてきました。2002年には文部科学省の知的クラスター創成事業に採択され、静岡大学、浜松医科大学、浜松ホトニクス株式会社が中心となって10年間にわたり、高度なイメージングデバイスの開発等に取り組みました。2013年には浜松医科大学、光産業創成大学院大学、浜松ホトニクスと静岡大学の4者で、浜松を光の尖端都市にするという「浜松光宣言2013」に調印、連携して様々なプロジェクトに取り組んでいます。
感性COIのサテライト拠点としての活動もこの枠組みを土台として進めてきました。

撮像技術で様々な業界に貢献

静岡大学では、高柳先生から続く伝統として光や映像に関する研究が非常に盛んです。高柳先生と教え子たちはNHKに移ってテレビ放送の実現に貢献しましたが、現在も静岡大学の技術が最新の映像制作を支えており、話題の8Kカメラにも私たちの技術が使われています。また、高精細・高速度の撮影を可能にするイメージセンサを開発することで、製造業や医療の高度化にも貢献してきました。
しかし、感性の計測・可視化というのは未知の分野であり、我々に何ができるのかを考えることからのスタートとなりました。

高性能イメージセンサで血流を測る

感性研究で実績のある広島大学中核拠点や生理研サテライト拠点の研究に刺激され、カメラによる生体信号計測の分野で高い実績をもつ千葉大学の研究グループの参画を経て、光の技術を感性の測定に活かす道筋が見え、形になったのが「顔感性カメラ」です。
静岡大学では、わずかな光や、わずかな時間差などを検出する特殊なイメージセンサを数多く開発し、放送や医療の現場、産業分野に貢献してきました。顔感性カメラは、この技術を用いて人間の顔から脈波を計測できる新しいデバイスです。顔を撮影した動画からヘモグロビンの色成分を抽出し脈波を可視化することができ、近赤外線センサを用いたデバイスでは暗闇でも計測が可能です。ロックインピクセルという技術を用い、夜間走行中の自動車に差し込む街灯の明かりなど周期的に変動する外乱光と脈波の周期的な変化を分離する機構を組み込んだデバイスの開発にも成功しました。

ドライバー監視装置が標準装備される時代に

ヨーロッパではドライバー監視装置の装着義務化が決まりました。今後、様々な技術を用いた装置が開発され、新車に搭載されていくことになるでしょうが、顔感性カメラと類似の技術でドライバーの脈拍から感性情報までを読み取る装置が開発されているという話は聞きません。これからの自動車に欠かせない技術として、顔感性カメラは非常に大きなポテンシャルを持っていると言えるでしょう。
さらに、自動車に限らず、装置の操縦や様々な作業を行う人、レジャーを楽しむ人の安全性、あるいは満足感を高めるために、幅広く応用されていく可能性があります

近赤外線分光法を用いて脳活動を測る

浜松医科大学の研究によって、近赤外線分光法(NIRS)を用いて前頭部の脳活動を計測し、作業中の心理状態を評価できることも確認できました。額にあてた装置から近赤外線を照射し、脳内で散乱・吸収されながらセンサに戻ってきた光を計測する仕組みで、小さな装置で計測可能です。脳活動は専用の部屋が必要なfMRIなどの大がかりな装置で計測することが一般的ですが、NIRSであれば机上に置けるコンパクトな装置で測ることができます。高精度化のためには、時間分解(TR)型のNIRSが適していますが、将来的にはTR-NIRSをヘアバンドや帽子状のウエアラブルな装置にまで小型化して、気軽に脳活動を計測することが可能になると考えています。
感性COIの取り組みがスタートした当初は光技術でどんな貢献ができるか未知数でしたが、感性の計測・可視化に取り組んで来た研究者から高い評価をいただけるようになりました。

光を用いる計測ならではのメリット

イメージセンサや光による計測技術の特徴は被験者の負担が少ないことです。非侵襲であることはもちろん非接触、非拘束で、被験者の自然な姿を捉えることができ、さらに様々な装置に組み込むことが可能なので、被験者が計測されていることを意識しない環境をつくることができます。繊細な感性を計測する際、計測されているというプレッシャーがデータに影響することも多く、この特性はとても大きなメリットになります。運転席に搭載することで運転者の感情や体調の変化をモニターすることや、医療や介護の現場などで24時間の見守りに使うことも容易になります。
また、脳波や心電、筋電などは電気信号であるため装置が発する磁場や電波などの影響を受けることが少なくありませんが、光は電気信号と干渉することがないのも大きなメリットです。今後の感性研究において、電気的なデータを測りづらい環境では光による計測は重要な計測手段となるでしょう。

光創起の挑戦は今後も継続

冒頭に申し上げたとおり、感性の計測・可視化というテーマは光創起の研究者にとって未知のものでした。光の技術、イメージセンサの可能性が理解されるに従って応用の取り組みが加速しましたが、まだまだ性能改善や応用領域の拡大は可能であり、さらに新しい技術やデバイスの開発も進めて行きたいと考えています。
残念ながら感性COIという枠組みは今年度で終了となりますが、このプロジェクトで得たネットワークを活かし、今後も広島大学中核拠点、生理研サテライト拠点と連携しながら研究、および社会実装を進めていきたいと考えています。感性の可視化という難しいテーマに挑んだことで、より技術力・開発力を高めた光創起の今後にどうぞご期待ください。

2021年12月発行「精神的価値が成長する感性イノベーション拠点」成果集より転載

光創起イノベーション研究拠点棟 〈光創起研究棟〉

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