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第10回iPERCセミナーを開催しました

2020/06/08

5月18日、Beckman Laser InstituteのProject ScientistであるRobert Virgil Warren先生をお迎えして、光創起イノベーション研究拠点のJournal Clubを開催しました。新型コロナウイルス感染症の感染防止のため、今回はWeb会議システムを用いたオンラインセミナー形式で開催しました。

 本セミナーは、浜松医科大学と静岡大学の学生が1つの英語論文を役割分担して発表するJournal Clubです。今回は、「Light-sheet microscopy for slide-free non- destructive pathology of large clinical specimens」を題材にして、病理組織診断のために大きな検体をスライド不要で観察可能にする光シート顕微鏡法について議論しました。

 論文では、顕微鏡による病理学的標本検査の現状と提案手法について次のように論じられています。

 アメリカで新たに癌診断を受ける年間170万人の患者の治療法決定は、病理学的標本検査に基づいています。しかし、その至適基準: gold standardである顕微鏡による検査は、目的の組織をそのまま3次元で可視化することが困難なため、観察者により評価の変動が大きく、予後*1の推定精度に限界があります。

 従来の手法では、人体から採取した検体を複数の薄い切片に加工してスライドガラスに封入し、撮像することで3次元情報を取得できます。しかし、作業工程が多いことにより時間と労力を要するため、臨床で他の業務に加えることは困難です。加えて、作業工程による検体の劣化や、撮像領域が小さいことから、評価のばらつきが大きいことが問題になっています。非破壊の顕微鏡法にさまざまなアプローチがされてきましたが、検体の損傷や、厚み方向の撮像可能領域、撮像速度等にそれぞれ欠点があります。

 この論文の提案手法であるオープントップ型光シート顕微鏡法は、検体の損傷を抑えられる、検体サイズ(縦横幅)に制約がない、厚みに合わせて撮像速度を調整可能である、という特徴があります。

 光シート顕微鏡法は、薄いシート状の励起光を検体側方から照射し、励起光と垂直方向に配置したカメラで焦点面の蛍光を検出する非破壊の顕微鏡法です。検体を移動して焦点面を移動しながら撮像することで、3次元情報を取得します。焦点面以外に励起光を照射しないため、通常の落射蛍光顕微鏡法と比べてピンぼけしづらく検体の損傷が抑えられます*2。ただし、光学系が被写体付近に配置されていることから、撮像可能な検体サイズに制約がありました。

 提案手法では、光学系をステージ下面に配置し上面を開放することで、検体が自由に移動できるようになるため、大きな検体が撮像可能になりました。また、励起光と収集光がステージのガラスを透過する際に発生する収差*4を最小限に抑えるため、ステージ下面に薄い油層とソリッドイマージョンレンズ*3が配置されました。

 臨床病理学的利用法が検証され、不規則な表面の検体を含む臨床検体の3次元イメージングと、表面イメージングの両方を迅速に行うことができることから、さまざまな用途で利用可能であることが示されました。

 各発表者の発表が終わると、聴講者から発表者に対して以下のような質疑応答が行われました。

Q1: 提案された顕微鏡法ではどの程度まで拡大可能か。

A1: 1.4 µmの分解能がある。とても小さな構造をイメージングできる。

Q2:被写体の厚みに対して撮像速度が制限される技術的課題は何か。

A2: 撮像速度はカメラのフレームレートによって決まる。厚みが大きい被写体に対応してカメラのクロップ*5サイズを大きくするには、フレームレートを小さくする必要がある。したがって、厚みが大きい場合、フレームレートを小さくする必要があるため、撮像速度が小さくなる。

Q3: 光学系について作動距離: working distanceによっては対物レンズ同士が物理的に干渉することが考えられるが、何か特別な設計がされているのか、もしくはレンズの開口数に制約があるのか。

A3: 集光に用いるレンズは開口数が大きくSIL*3の近くに配置されているが、励起光の入射に用いるレンズは開口数が小さく作動距離が大きいため干渉しない。

Q4: 検体について、従来の手法では均質化してスライドガラスに封入することで、後から観察しなおせるが、提案手法で用いられたプロトコルの場合どのように検体を保存しているのか。

A4: 検体を染色する前にホルマリンを用いて処理している。どのように保存しているかはわからないが、データが保存されているためそれを見返すことができる。

Warren先生の補足: 3次元イメージングには利点があり、最初に検体全体をイメージングできていれば、再び顕微鏡で観察しなくとも、そのデータを参照して異なるスライドやセクションから観察することも可能である。

 Warren先生の「光シート顕微鏡法は1世紀以上前からある技術なのに、なぜここ10数年で人気になったのか」という質問に対し、発表者は「脳科学等で生きた被写体が撮像されるようになり、光シート顕微鏡法は光毒性が小さいことが理由だと考えられる」と回答されました。Warren先生はその意見に同意し、「ここ10年のCMOSカメラの進歩はとても重要で、CMOSカメラの登場が、光シート顕微鏡法が有用であるという流れを作った」と補足されました。

 上記の質問以外に、具体的な撮像条件に関する質問や人工知能による診断の話題などさまざまな議論が行われました。

 論文では、複数のカメラを用いることでイメージング速度を向上可能であることや、コンピュータ支援診断システムおよび自動画像解釈の取り組み等の展望について論じられていました。今後、カメラの性能向上や散乱線補正等のデータ処理によって、より高速で高画質な3次元顕微鏡イメージングが可能になることを期待しています。

■題材論文

GLASER, Adam K., et al. Light-sheet microscopy for slide-free non-destructive pathology of large clinical specimens. Nature biomedical engineering, 2017, 1.7: 0084.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5940348/(2020年5月20日)

■参考文献

*1          予後: 手術や病気、創傷の回復の見込みを意味する医学用語

(出典: 予後 – 薬学用語解説.日本薬学会.

https://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?予後(2020年5月28日))

*2          野中茂紀, 「光シート顕微鏡:生体観察のための新しい顕微鏡法 Light-Sheet Microscopy: A New Principle for Live Imaging」, 『顕微鏡』第47巻 3号, 2012, pp.163-166,

http://microscopy.or.jp/jsm/wp-content/uploads/publication/kenbikyo/47_3/pdf/47-3-163.pdf(2020年5月23日)

*3          ソリッドイマージョンレンズ(Solid immersion lens : SIL):半球型または超半球型をしており、空間分解能を空気中の回折限界以上にすることができる。底面の中央付近の像を球面収差なく結合可能であり、近接場顕微鏡に用いられる。

(出典: 秋山英文ら.「ソリッドイマージョンレンズ(SIL)を 用いた近接場蛍光顕微計測法.」, 『応用物理』第71巻6号, 2002, pp.716-717

https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu1932/71/6/71_6_716/_pdf(2020年5月28日))

*4          収差: 理想結合からのずれ。像がぼけ、歪む原因となる。

(出典: 加藤欣也, 「レンズ光学の基礎3: 光学系の収差」, 『視界の科学』第36巻 3号, 2015, pp.40-44)

*5          クロップ(crop):イメージセンサのうち中央部分のある範囲のみを使って撮影する機能。データ処理量が減るため、連写性能が向上する。

(出典: クロップとは.【ライカイズム】写真用語辞典.

https://leicaism.jp/glossary/crop.html(2020年5月28日))

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