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第12回iPERCセミナーを開催しました

2021/09/21

2021年8月4日、Beckman Laser InstituteのProject ScientistであるRobert Virgil Warren先生をお迎えして、光創起イノベーション研究拠点のJournal Clubを開催しました。新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、前回に引き続き今回もWeb会議システムを用いたオンラインセミナー形式での開催となりました。

本Journal Clubは、静岡大学と浜松医科大学の学生が1つの論文を役割分担して発表する形式をとっています。今回はScience Translational Medicineの「Near-infrared nerve-binding fluorophores for buried nerve tissue imaging」を題材にしました。

タイトルにもあるように、今回の論文では、埋没した神経組織の可視化のために、近赤外(NIR)*1発光を伴う神経結合型蛍光体を開発しました。

医療行為中に起こる神経損傷は、最も恐れられている外科的合併症の一つであり、全ての外科専門分野にわたって、合併症の主な原因となっています。手術により、米国だけで年間最大60万件の神経損傷が起こっており、末梢神経の外傷全体の約17%を占めています。そして、この神経障害性疼痛*2は、患者の生活の質を制限し、医療費を増加させています。そのため、末梢神経系のリアルタイムでの正確な可視化により、医療行為中に起こる神経損傷を低減させることは非常に重要です。

それまでに使われてきていた全身投与型の神経造影剤は、主に可視波長で発光し、脂肪や筋肉、筋膜などの周辺組織にも非特異的に取り込まれるため、外科的に露出した表面レベルの神経のみしか検出できていませんでした。それに対して、本論文では、オキサジンライブラリに焦点を絞った合成設計、スクリーニング、及び前臨床特性評価を行いました。それにより、多様な物理化学的特性と神経結合特性を備えた強力な神経特異的NIR蛍光体の候補を特定することができました。それらは、脂肪組織を含むすべての外科的に関連する組織で最小限の非特異的取り込みを示し、高い神経対バックグラウンド比を示し、 2~3mmの深度までイメージングをすることができました。また、ブタのイメージングにより神経特異的NIR蛍光体の能力を実証し、改良された臨床腹腔鏡FGSシステムを用いることで、従来の白色光内視鏡検査では見えない埋没神経を識別することができた。

各発表者の発表が終わると、聴講者やWarren先生からの質問に対して、以下のような質疑応答が行われました。

Q.NIRを使うメリットがいくつかありますが、イメージングをする上で最も重要なメリットは何か?

A.細胞での光子の吸収が小さいことと、組織への透過性に優れていることである。

Q.開発した蛍光体の検証の際に、局所への直接投与と全身投与の両方の投与の方法が使われているのはなぜか?

A.神経は筋肉よりも深いところにある。そのため直接投与をすることにより、よりクリアーに神経のみをイメージングをすることができるからである。また全身投与により、毒性を評価することができるからである。

Q.今回の論文の結果を私は面白いと感じるが、あなたはどう思うか?また、どこが面白いと感じるか?

A.私もこの結果は面白いと思う。実体験として合成はとても難しい。新たな化合物を作る場合には、ほとんどの時間を化合物の合成に使う。多くの時間をかけて彼らが得た結果は素晴らしく、面白いと思う。

Q.この化合物は、生きた組織のみ染色できるのか、それとも、死んだ組織でも染色できるのか?もし、生きた神経のみを染色できるならば、そのメカニズムはどのようなものか?

A.正直よくわからないが、メカニズムについては、この化合物が塩基であることが関連するかもしれない。なお、著者は追加資料としてex vivo(生体外に取り出した臓器・組織)での実験結果を示しているが、そこでの染色では特異的な結合は見られず、コントラストも良い結果を示していなかったと記載があった。著者はそれ以上は説明していないが、この結果は、この化合物が生体内での生きた神経のみの染色にしか使えないことを示唆するのかもしれない。

Q.1回の投与でどれくらいの時間の蛍光の測定ができるか? 

A.2~3分の動画が添付資料に載っているため、それくらいの時間は測定できると考える。

Q.BNB (brain-nerve barrier) とは何か?

A.BNBは私たちの体内の物質障壁の一つである。脳を含む中枢神経も末梢神経もとても重要な細胞・組織であり、毒物などから守る必要がある。BNBは脳のBBB (blood-brain barrier) と同様の機能を持つ、末梢神経に存在する物質障壁で、分子量500g/mol以上の物質は透過しないという特性を有している。合成した蛍光体はそれ以下の分子量のため神経に侵入することができる。 

Q.この研究を前進させるための最も重要な考慮すべきことは何だと思うか? 臨床現場で使用する場合に最も重要な考慮すべきことは何か、そしてそれがどの段階で十分であるかを知るのがいいと思うか? また、どのような種類のテストを行う必要があると思うか?

A.神経毒性の試験は最も重要な考慮すべきことであると考える。なぜなら、患者の安全が最も重要であるからである。

A.今回開発した蛍光体を商業利用することを考えた場合、体への毒性についてさらに多くのデータを取得する必要がある。論文に載っているデータだけでは安全を保証できないからである。

Q.失礼な質問かもしれないが、もしあなたが金持ちだったら、たくさんのお金を持っていたとしたら、この研究グループの研究をさらに進めるためにもう少しお金を払う価値があると思うか?

A.まだ追加の支援をするには早いと思う。この研究はまだ毒性に関する研究の第一歩の段階にあると考えるから。

質疑応答では論文の解釈だけでなく、自分の意見を求められる場面が多くありました。医学、薬学、工学と様々なバックグラウンドを持った学生が発表者となっていたこともあり、それぞれの知識に基づいた回答がなされていた点が印象的でした。

 患者の負担軽減、術後の早期社会復帰などのメリットがあることから、多くの腹腔鏡手術が行われています。今回の論文でも登場したda Vinciシステム*3は浜松医科大でも導入されており、多くの腹腔鏡手術の場面で活躍しています。今回の論文で提案された新たな蛍光体の毒性試験等が進み実用化されることで、 医原性神経損傷の発生件数が低下していくことを願っています。

20210804Journalclub

 【題材論文】

Wang LG, Barth CW, Kitts CH, et al. Near-infrared nerve-binding fluorophores for buried nerve tissue imaging. Sci Transl Med. 2020;12(542):eaay0712.

【参考文献】

*1 近赤外 (NIR):電磁波の一種で、可視光の赤色よりも波長が長く、遠赤外線より波長の短いもので、人の目では見ることができない光とも言われている。波長は650~900nm。リモコンや赤外線通信に使用されている。

https://kitajima-shika.jp/course/anti-aging_9(2021年8月30日)

*2 神経障害性疼痛:罹患した患者の日常生活に多大な支障をきたし、その生活の質(QOL)を著しく低下させる。

https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide06_13.pdf(2021年8月30日)

*3 浜松医科大、最新鋭手術支援ロボット「ダビンチXi」による手術

https://www.hama-med.ac.jp/hos/about-us/feature/adv-med-care/index.html#zyutucyu

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